No.36 2003.07"Миллион звезд" ミリオン・ズビョースト/百万の星

「ロシア極東大学」はどんな学校か

ロシア極東国立総合大学函館校 校長 イリイン・セルゲイ

2004年4月11日、函館校は設立10周年を迎える。本学104年の歴史と比較すれば、函館校の歴史はまだ浅いが、この9年間で得られた経験は貴重なものだ。
函館校は9年前、日本唯一のロシアの大学分校としてその活動をスタートした。
90年代初めのロシア国内の政治経済の不安定のなかで、日本のいわゆる『ロシア語ブーム』はほとんど消えてしまったと言える。しかし一方、日本には以前からロシア文学やロシア語を教える大学はいくつかあり、(早稲田大学、東京大学、東京外国語大学など)、単にロシア語を話せる、または、ロシア文学を知っているという人材は数多くは必要ないともいえる。そのため函館校は日本にない専門分野、日本の若者にとって魅力のある、意義ある教育プログラムを与えることを目的に据えた。ロシアの政治経済の変化を考えれば、近い将来両国に専門家が必要となってくることは明らかだ。従って函館校は独自の「ロシア地域学」という専門を選んだ。単にその国の言葉を知っているだけでは、国間の諸問題を解決、発展させることは出来ないのだ。函館校の地域学科の学生たちは、ロシア語はもちろん、ロシアの歴史、地理、民族学、経済、政治制度、文学、文化史等のロシアのエキスパートになるために必要な科目を学んでいる。もちろん、ロシアをよりよく理解するためには、ロシアを体験しなければならない。当校では学生は3ヶ月間ウラジオストクに留学することが必修である。ウラジオストクで、ロシア語を勉強するだけではなく、実際にロシア文化、ロシア人の日常生活を見聞するのだ。
近くて遠い国といわれるロシア。地理だけでなく文化的にも近い国となるためには何が必要なのか? 両国民の相互理解を深めるには何をすればよいのか?
5年前に赴任した時、私は頭を悩ました。函館校は日本唯一のロシアの教育機関であり、ロシア文化の知識を日本に普及させるユニークな機会を与えている。単に学校であるだけでなく、ロシア教育・文化のセンターとならなければならないのだ。そこで函館ロシア文化センターのアイデアが生まれた。センターの重要な課題として次のものを定めた。
1.① 函館市民へのロシア文化の普及の目的で、一般市民向けに「ベリョースカ」クラブを設立。 
  ② 函館の子供のための「ロシアクラブ」を設立。
  ③ 毎年「ロシアまつり」を開催。
  ④ ロシア語の市民講座を開講。
  ⑤ ロシア料理教室開催。
2.日露経済交流を深めるために日本ビジネスマン、道府県庁の職員向けのロシア語インテンシブコースを開講。
3.税関職員のロシア語研修。
4.函館日ロ親善協会と共に講演会、コンサート等の文化行事を開催。
5.本学日本語学科の学生の研修受け入れ。
6.日露青年交流センターからの委託事業。
7.講演会などへの講師派遣。
 
当校は開校以来9年間で(今年の卒業生を含めて)総計125名の卒業生を送り出した。また本校からの日本語研修生として計39名の学生や、日露青年交流センターの委託でサハリンの若者88名を受け入れた。170名以上の函館市民がロシア語市民講座でロシア語を学び、インテンシブコースでは15名、税関職員コースでは37名が研修を受けた。ロシアクラブには40名以上が参加し、ベリョースカクラブには約70名が参加した。特に人気が高かったのはロシア料理教室だ。3回の開催で計72名がロシア料理の作り方を学んだ。さらに函館校の教員は市民、税関の職員、ビジネスマンなどを対象に合計80回の講演を行った。
函館校開校以来のこの9年間で、北海道でのロシア語、ロシア文化への興味が高まってきたことは明らかだ。ひとつには、ロシア語を授業に取り入れる高校が増えてきたことが挙げられる。そうした高校は、現在、根室西高や千歳高、札幌国際情報高など6校ある。また、函館大谷高校では、昨年から選択科目にロシア語を取り入れ、本校のアニケーエフ教頭が指導している。また、サハリン州、沿海州などからの水産物輸入や船員上陸の増加によるロシアとの交流の拡大や、特にサハリン石油開発に関連して経済関係が今後増加することを予想し、北海道教育委員会は昨年からロシア語指導教員の養成事業をスタートした。函館校がそのロシア語教員の養成を受け持つことになったのは、ごく当然の成り行きである。同じく、極東大と同じ建物に今年10月、在札幌ロシア総領事館函館事務所が開設されることになったのも偶然ではないだろう。
様々な分野における当校の活動の結果として、函館校は事実上ロシアの教育・文化センターとなった。歴史は浅いながらも、我が函館校の努力の結果、函館市民のロシアの文化への理解が深まり、両国の親近感は強まったと思う。日露関係は今後も続いていく。私たち皆が力を合わせて努力し、ロシアと日本が精神的、文化的な結びつきを更に強めていくよう期待している。

前期試験

前期試験日程
今年度の前期試験を下記の通り実施します。ザチョット週間は通常の時間割どおり行われますが、エグザメンの日程については掲示板で確認してください。
<ザチョット>7月14日(月)~7月18日(金)
<エグザメン>7月22日(火)~8月 1日(金)

ザチョットナヤ・クニーシュカ
前期試験中は必ずザチョットナヤ・クニーシュカを携帯し、担当教員からサインをもらってください。なお、1年生には試験初日までに配付します。

留学実習説明会

出発前最後の説明会
9月にウラジオストクへ留学するロシア地域学科3年生を対象とした第3回留学実習説明会を7月16日(水)に行います。時間と場所は掲示板で確認してください。
今回は出発前最後の説明会になります。第2回説明会で渡した「留学のしおり」をよく読んで、疑問や不安な点があればこの説明会で確認してください。

学生課よりお知らせ

夏季休業
今年度の夏季休業は、8月4日(月)から9月15日(月)までです。休業中も平日は事務局や図書室などの利用は可能ですが、8月13,14,15日の3日間は事務局も休業となりますので留意してください。なお、後期授業は9月16日(火)からです。

短信

墓地清掃終わる
今年度のロシア人墓地の清掃活動を6月14日(土)に実施しました。
今回は、在札幌ロシア連邦総領事館からリャボフ領事他7名が参加し、本校教職員と市役所職員とともに雑草を刈り取ったり用意した花を花壇に植えるなどして墓地内をきれいにしました。
清掃終了後、本校食堂でシャシリクなどのロシア料理で昼食会を開き、親睦を深めました。

「ベリョースカクラブ」開講
今年度1回目の「ベリョースカクラブ」が6月16日(月)に行われました。
この講座は、市民にロシア文化や歴史等を学んでいただくことを目的に5年前に開講したもので、今年は24名の参加者でスタートしました。
講座に先立って開講式が行なわれ、その中でイリイン・セルゲイ校長は、「この講座を通して〝ロシアの心〝を知ってほしい」と挨拶。
引き続きグラチェンコフ・アンドレイ教授が、「なぜ、ロシア人は警察を恐れるか」と題して講話。ロシアにおける治安状況と警察の実態、刑務所の現状等についてマフィアと関連づけて話され、参加者全員熱心に耳を傾けました。
なお、今年度は、あと6回の講座を予定しています。

イリインカップチェス大会開催
今回で4回目となるイリインカップ争奪チェス大会が6月21日(土)本校で行われました。
5歳から50代まで男女合わせて40人が、5人1組のチームを作って参加。団体戦で優勝を競いました。
各チームの力が接近し白熱のゲームが繰り広げられましたが、結局、小中混成のジュニアチームが極東大チームに競り勝ち初優勝を果たしました。

特別寄稿

極東の持つ独自性  宮澤謹次

5月半ばにウラジオストクにとうとう到着した。訪露4回目にして初めてである。街を歩いた最初の印象は、大地に唾する「ヨーロッパ」。
22年前にモスクワで無意識に路傍に唾した際、「ヨーロッパでは誰もそんなことはしない」とたしなめられた。「あなたが汚した大地にひざまずいて・・」という『罪と罰』のソーニャのせりふも思い出され、「さすが母なる大地の国だ」と感心したものだった。
しかし、煤けて傷んだものが多いとは言え、百年前に建てられた品格あるレンガの建造物が軒を列ね、「かつて美しかったことがわかるがために、いっそう零落ぶりが際立つ元貴婦人」といった雰囲気のウラジオの街を、現に行き交う人々はしきりと唾を吐く。
学生寮の最上階の窓から吐く豪傑もいて、これで怒鳴りこまれたりなどしたら、まさに「天に唾する」行為ではないか。
とは言え、休日のJRAの馬券場の午後ほどに紙屑が無惨に舞っている訳ではないし、朝のシャンゼリゼのように犬の落し物が点在する訳でもない。5月下旬に、着飾る形で三百年を迎えたペテルブルグにしても、一歩表通りを入れば、日当たりが悪く、すえた匂いを放つ水たまり、真っ赤にさびた車が打ち捨てられている、そんな光景にしばしば出くわしたものだ。
ただ、ヨーロッパの場合、多分それらは表立って堂々とできることではなく、裏に隠すべきことだという暗黙の了解があるようなのだが、ここ極東ではそれが白昼に、じつにあけっぴろげに行われているに過ぎない。
日本の観光パンフレットにおけるキャッチフレーズは「一番近いヨーロッパ」である。しかし、アジア極東部という地理上のかたよりがもたらしたのだろうか、頭ではヨーロッパのつもりでも、実際の振る舞いとしてはヨーロッパならざるこの街の独自さをかいま見た思いになったものだ。
着いて1週間後の日曜日に、10回目を迎えた日本語スピーチコンテストが沿海州庁舎のホールで行われた。児童生徒の部の発表者が5人、大学生社会人の部の発表者は10人。聞き取り辛い発音の人も少なくなかったが、死生観や教育、神話やジンクスなど、ロシア人による実感的な露日文化の比較検討が新鮮で面白かったので、いくつか紹介したい。
ロシアのアニメが善悪の完全な二分法で描かれているのに対し、例えば、『千と千尋』はそういう見方を取らず、しかも言葉に表さない意思交流もあるので、くり返し見たくなる、というアニメ論。
日本でいじめ問題が深刻なのは、もっとも感受性が鋭い時期に、たった3年間しかない学校に2度も入学し、そのたび、新しい人間関係にさらされるという強いストレスを負うためだ。9歳からの7年間を同一クラス、同一担任のもとで落ち着いて親密に過ごせるロシアの学校制度を日本も導入すべきだ、という教育制度論。
また、社会主義崩壊後の拝金主義のまん延の中で、急にお金を得たためにそれまでの親類づきあいをぷっつり絶ってしまった叔母の例に、ムラカミハルキの小説そのままの「羊に食われた人間が闊歩する現状を憂える「社会の深刻な『中毒』について」。
際立って印象に残ったのは、欧米中心の外交が手詰まりになっている現在こそ極東の視点を持つことが重要だと考え、外交官を志望するようになったと言う極東大学3年生のシピチコ・ウリヤナさんの発表だった。「女性が外交官になることの長所と短所は?」という審査員の質問に、「相手の人間性を一気に観察できる点が長所で、もし女性だからということで短所が生じるとするなら、そういう外交のあり方自体を変えて行きたいし、変えなければいけないと思います」と、真摯な主張で応えて感動を呼び、結局この日の最優秀賞を獲得した。
彼女の考える通り、世界を席巻してきた欧米主義のほころびが殊に目立つのは、中東に代表される、欧米との境界やその周辺区域においてである。そうした、どちらかと言えば今までマイナスと見られた周辺地域にむしろ立脚することで、停滞する現状を打破しようという若々しい考えは、「極東の持つ独自さゆえの可能性に目を向けなさい」と叱咤するものと感じられてならなかった。
(旭川工業高校教諭:道教委長期研修生)

函館日ロ親善協会からのお知らせ
4~6月までの協会の主な活動実績

5月16日(金) 
◆ 役員会開催 
15年度定期総会議案について協議。

6月13日(金)
◆ 平成15年度定期総会(五島軒本店)
14年度事業報告及び収支決算、15年度事業計画及び収支予算案等について協議。総会終了後、最近の日ロ関係について、在札幌ロシア連邦領事館のリャボフ・オレグ領事による講演会を実施。

6月17日(火)
◆ ウラジオストクテレビ局チームの取材を受ける。
 サンクトぺテルブルグ建都300周年を記念して実施中の「ロシアにおける日本文化フェスティバル」の一環として、函館校とともに取材を受けました。
(若山副会長、松本専務理事、加地理事、斉藤理事が対応。14年度に実施したウラジオストク市訪問、ユジノサハリンスク市訪問事業を中心に協会の活動を紹介しました。)

≪係りより≫

「ミリオン・ズビョースト」36号をお届けいたします。今回はイリイン校長の巻頭文に加えて宮澤謹次さんのウラジオストク便りも掲載しました。
宮澤さんは、高校の教員で北海道教育委員会の「ロシア語指導者養成事業」の研修生としてウラジオストクの本学に留学中です。学生の皆さんも載せてほしい記事がありましたら遠慮なく申し出てください。
試験が終われば夏季休暇です。有意義な休暇になるよう期待しています。(小笠原)