No.31 2002.04"Миллион звезд" ミリオン・ズビョースト/百万の星

スピーチコンテストを終えて

極東国立総合大学附属東洋大学 日本語講師 工藤 久栄

話は5ヶ月ほど前の11月18日までさかのぼるが、この日富山県主催の第8回日本語スピーチコンテストがここウラジオストクで行われた。
その頃のことを少しお話しさせて頂きたい。
毎年恒例のこのウラジオストクスピーチコンテストは今回で8回目を数えるのだが、スピーチコンテストに出場する為にはまず第一審査である書類選考をパスしなければならない。
またステージでスピーチを発表できる人数は「大学生および社会人の部」では7人であり、日本語の授業を受けた時間数が800時間以下の者が募集対象となるのでおのずと我が極東国立総合大学では2年生だけがその条件を満たす学生となる。
僕は現在2年生、3年生を担任しているので、学生たちに参加の意志があるかどうかを尋ねたところ、二人の学生が勇敢にも声をあげた。
彼らは二人そろって見事書類選考をパスし、スピーチコンテストに参加できることになった。 
ステージ発表に至るまでの過程を一人ずつ記憶の糸をたどり、お話ししたいと思う。
一人目の学生はマーシャという女の子で、テーマは「結婚の習慣」というもの。
僕のところに文章を持って来た時には、ほとんど完成に近い状態で、なんでも他の学校の日本語教師と一年も前からあたためていた物のようだ。
だがテーマもさることながら、内容もごく普通のこれといった特徴のない文章でそれをまた暗記しているからこれは少し分が悪いと正直思った。
できることなら何もない状態から、テーマから一緒に決めたかったがそうも言っていられない。
その日から文章の手直しが始まった。
マーシャは2年生でありながら小学校で日本語の先生のアルバイトをしている。
当日はマーシャの教え子達もスピーチコンテストを見に来るというので、彼女はなんとしてでも入賞しなければと気合が入っていた。
気合が入っていたまではよかったのだが、コンテストが近づいて行くうちに彼女の中の「強い気持ち」がプレッシャーという名の「負の気持ち」へと変わってしまった。
彼女はコンテスト2日前、「入賞できなかったら恥をかく。恥をかくくらいなら出場しない。コンテストには出ない!」と僕に訴えた。
マーシャは僕が見る限り、神経質で控えめな女の子であり、僕も人前では緊張する人間なので、彼女の参加したくない気持ちはよくわかる。
しかしこのような人間はいざ、ステージに立ったら立ったで、しっかりとやり終えることができることはわかっていた。
函館校での学生時代、自分も1年生と2年生の時に2回ロシア語のスピーチコンテストに参加したが、結果は2回とも参加賞で入賞することはなかった。
スピーチコンテストは自分のような人前に出ることが好きではない人間が出るものではないとそれ以降考えるようになり、3,4年生の時はもう見る側の方へ回っていた。
しかし出場すると決めて、ここまでがんばってきたのに出場を取り止めるとなると話は別だ。 
僕は彼女の説得に向かった。
「これからの人生まだまだ辛い事はたくさん出てくる。 その都度君は今回のように逃げるのかい? 嫌でもやり終えれば君の力になる、経験を他人より一つ多く踏んだことになるんだよ。」
僕の本心でもあったし、必死の説得だった。
次の日、僕の気持ちが通じたかどうかは定かではないが、彼女は参加することを誓った。
彼女の発表は堂々たるものだった。
発表を終えた彼女は笑顔で「今日は朝まで友達と遊びます。」と言っていた。
一つ壁を越えたマーシャは今学期、少し積極的になった気がする。
いや、気がするというよりは、実際、積極的になったのであろう。
マーシャは参加することの大切さをあらためて僕に教えてくれた。
もう一人の参加者はジェーニャという男の子でテーマは「私の町」。
彼の生まれ育ったアルセイニェフという町には日本人捕虜収容所が置かれ、他の多くの町と同様、たくさんの日本人が労働力ととして使われ、極寒の中に倒れていった。
また黒沢明監督が「デルス・ウザーラ」という映画を撮影したことでも有名な町である。
僕もこのようなテーマには興味があったので、自分の知る限りの事を彼に伝え、彼は文章を作成し持って来た。
すぐに「O・K」は出さなかった。
「ジェーニャ、これはいい文章であり、すごくいい文章ではない。君の文章ではまだ優勝はできない、テーマはとてもいい、後は内容なんだよ。」
ジェーニャを見ていて驚かされるのは彼のその純粋さで、僕の授業でも常に一番前の席に座り、真剣に話を聞いている。
彼の学習意欲には頭が下がる想いである。
僕は彼のその真っ直ぐな純粋さはきっとスピーチの時、多くの観客に伝わるだろうと確信していた。
となると後はやはり彼の訴えたい内容、そして日本語文章の美しさが重要になってくる。
彼は毎日僕の所へ足を運んだ。
大学の勉強の他にスピーチコンテストの練習で大分疲れはたまっていたが、それでも練習のかいあって、またそれに彼の本番での勝負強さが助けとなりスピーチはすばらしいできだった。
結果は第一位、彼は優勝した。
優勝インタビューで彼は迷うことなく僕の名前を言ってくれた。
スピーチコンテストはこうして無事幕を閉じ、僕はまだ会場内の後片付けなど仕事が残っていたのだが、ジェーニャは一位の賞品を抱え僕を真っ直ぐに見据えこう言った。
「先生、外で待ってます。」
この時の彼の言葉は本当にうれしかった。
僕にとっての彼からの贈り物だった。
彼のこの言葉と真っ直ぐで誇らしげな顔は今でもはっきりと覚えている。
彼とは今度一緒に彼の町であるアルセイニェフへ行き、日本人墓地を訪れることを約束した。
今回のスピーチコンテストの思い出は僕にとって生涯忘れられないものになった。
マーシャは参加することの大切さ、そして壁を乗り越えて人は強くなることを教えてくれた。
ジェーニャは学問に取り組む純粋で真摯な姿勢を教えてくれた。
また僕の人生経験も彼らを助けることができた。
彼らは本当によくがんばり、おかげで僕は先生として最高の喜びを味わうことができた。
心から二人には感謝したい。
彼らのような若者が将来活躍することを僕は今、確信している。

人事

事務局が変わります
4月1日に小笠原雅(おがさわらただし)新事務局長が着任しました。中学校の英語教員として長年教育に携わってきた経験を生かしての活躍が期待されます。なお、これまで事務局長を兼任していた町田専務理事は専務理事職に専念する事になりました。また、種田次長は4年間に渡る研修派遣期間が終わり、函館市役所に戻る事になりました。事務局の業務が順調に進むよう配慮し、学生の相談役も務め、学校行事の企画と準備の中心的存在でした。また、この学校でみんなが気持ちよく過ごせるよういつも気を配り、的確な指導をしてくれました。あっという間の4年間でしたが、本当にお疲れ様でした。市役所に帰ってからも益々のご活躍を期待します。
交代に函館市から派遣される次長は4月中旬に着任の予定です。

日本育英会

奨学生募集説明会
平成14年度日本育英会奨学生を募集します。4月18日(木)午後2時40分から第7教室で説明会を行いますので、希望者は出席してください。
当日都合で出席できない学生は事前に事務局へ申し出てください。

予約進学者は
本校入学前に日本育英会の奨学生採用候補者に決定している新入生は、進学届・確認書・振込口座届を4月22日(月)までに事務局学生係に提出してください。

再試験日程

再試験願の提出を
前年度の不合格科目のある学生を対象に4月9日(火)から4月19日(金)まで再試験期間を設けます。
再試験を受ける場合、再試験料を添えて再試験願を事務局に提出してください。その後、担当教員から試験日時の指示があります。年度を越えた再試験は、1科目1回毎に1,000円の再試験料を徴収します。
なお、期間中に合格できない場合は留年が確定し、前年度と同一学年を履修する事になります。

進路相談

個人面談の実施
ロシア語科2年生とロシア地域学科4年生を対象に進路についての個別面談を行います。
先日行った進路希望調査をもとに面談しますので、この調査用紙をまだ提出していない学生は速やかに提出してください。
日時は4月中旬から5月中旬の放課後の予定で、学生係の掲示板に掲示します。

はこだてベリョースカクラブ

ベリョースカクラブは、毎回違った角度からロシアについての話題を提供し、ロシアへの理解を深めていただくため開催しているもので、今年で4年目になります。
4・8・9月を除く毎月第3月曜日の午後3時から1時間、ロシアの楽しい話題を日本語で気軽に聞く事ができます。年会費は3,000円、4月30日までにお申し込みください。
なお、お申し込み多数の場合は、初めての方を優先させていただきます。

留学実習説明会

パスポートの取得を
9月にウラジオストクへ留学するロシア地域学科3年生を対象とした第1回留学実習説明会を5月17日(金)午後2時40分から第4教室で行います。
第1回説明会では、留学実習の日程、留学時の注意事項や準備の手順などをお知らせします。
また、第2回説明会の際にはパスポートが必要ですから、早めに取得しておいてください。なお、第2回説明会については後日掲示します。

学生課よりお知らせ

校舎の利用時間
本校の校舎を利用できる時間は、月曜日から金曜日までの午前8時15分から午後5時までです。この時間外に校舎を利用したいときは、事務局に事前に申し出て許可を受けてください。

掲示板について
学生へのお知らせは掲示によって行われます。毎日必ず掲示板を見るよう心がけてください。

欠席した学生は
本校では出席率80%以上が期末試験の受験資格になっています。授業を欠席したときは、担当教員の補習指導を受け、遅れを取り戻しておく必要があります。積極的に補習時間を活用してください。また、授業を欠席するときは事前に欠席届を提出しなければなりません。事前の届出ができない場合は電話などで連絡し、その後速やかに届出をしてください。

短信

函館校同窓会東京支部懇親会開催
2月1日(金)に函館校同窓会東京支部懇親会を開催しました。
イリイン校長、町田専務理事と8名の同窓生が再会し、同窓生同士会うのは初めての人もいましたが、学生時代に戻って楽しいひとときを過ごしました。
〈参加者〉
平成9年度 ロシア言語文学科卒 北村久美子
平成10年度 ロシア言語文学科卒 山田清一
平成11年度 ロシア言語文学科卒 石坂睦寛
平成12年度 ロシア言語文学科卒 岩田英伸、菊地有樹
平成12年度 ロシア語科卒 中村公一、大栗絵美
平成13年度 ロシア言語文学科退学 野副裕幸

第7回ロシア語弁論大会・マースレニッツァ開催
2月15日(金)に第7回ロシア語弁論大会とマースレニッツァを開催しました。
審査員には、駐札幌ロシア連邦総領事のサプリン・ワシーリー氏、ウラジオストクの極東国立総合大学から根室西高等学校にロシア語指導助手として派遣されているガリモワ・アレクサンドラ氏、ロシア語通訳として長年活躍されている小杉繁氏にお願いしました。
Aクラスで第一位となったロシア地域学科1年寺越弓恵さんは、「私の夢」をテーマにロシア語通訳者をめざす熱意を語ってくれました。またBクラス第一位になった小樽税関支署勤務の平田智昭さんは多くのロシア船が入港する「小樽港」で働くにはロシア語が欠かせないことを話されました。
午後からは、厳しい冬を追い払い暖かな春を待ち望むロシアの伝統行事である「マースレニッツァ」を開催しました。
今年は晴天のもと屋外で学生のコーラスグループ「コール八幡坂」の歌の後、冬の象徴である「モレーナ」(藁人形)を燃やし尽くす儀式を行いました。今年の「モレーナ」は2mを越す大きなもので、デルカーチ講師の指導により学生たちがおよそ2週間をかけて作製しました。儀式の後、形が丸いことから太陽=暖かな春を象徴し、「マースレニッツア」には欠かすことのできないブリヌイ(ロシア風クレープ)やピロシキ、シャシリク(串焼肉)などを食べながら、春の到来を祈願しました。
〈第7回ロシア語弁論大会結果〉
Aクラス
 第1位 寺 越 弓 恵 (ロシア地域学科1年)
 第2位 板 橋 史 展 (ロシア地域学科1年)
 第3位 太 田   翔 (ロシア地域学科1年)
 第4位 小 島 正 幸 (伊達市)
 敢闘賞 古 石 和 宏 (ロシア地域学科3年)
Bクラス
 第1位 平 田 智 昭 (函館税関小樽税関支署)
 第2位 川 崎 哲 哉 (函館税関稚内税関支署)
 第3位 木 下 竜 太 (函館税関小樽税関支署)
 第4位 河 野 英 治 (門司税関大分税関支署)
特別賞(聴衆が選出) 
     寺 越 弓 恵 (ロシア地域学科1年)

聖ニコライ祭記念講演会開催
2月16日は1861年に来函し、日本に初めてロシア正教を伝道した聖ニコライが1912年に亡くなった日で、ハリストス正教会ではこれを記念して2月15日から17日まで聖ニコライ祭が開催されました。
2月16日には函館校と函館日ロ親善協会も共催して記念講演会を函館校で開催しました。
歴史学者のサプリナ・タチアナ氏と共立女子大学中村喜和教授から聖ニコライの足跡をと函館とロシアとの関わりについてのお話をいただきました。
サプリナ・タチアナ氏
 「日本の聖ニコライの宣教の偉業」
中 村 喜 和 氏
 「まことの愛の半世紀 聖ニコライの偉業を回顧して」

函館日ロ親善協会からのお知らせ
1~3月までの協会の主な活動実績

2月12日(火)  
理事会開催 平成13年度収支見通し及び平成14年度記念事業について協議

2月12日(火)
ゴーリキー・ドラマ劇場in函館実行委員会設立会議に倉崎会長出席

2月15日(金)
極東大学函館校弁論大会・マースレニッツァを後援

2月16日(土)
聖ニコライ祭記念講演会を共催

2月18日(月)
実行委員会主催のゴーリキー・ドラマ劇場長歓迎夕食会に倉崎会長出席

2月19日(火)
協会主催のゴーリキー・ドラマ劇場長歓迎会を開催

2月25日(月)
第2回ゴーリキー・ドラマ劇場in函館実行委員会に倉崎会長出席

3月1日(金)
函館市国際交流団体連絡会議に倉崎会長出席

3月9日(土)
中国青島市青少年訪日団歓迎レセプションに松本専務理事出席

3月13日(水)
第3回ゴーリキー・ドラマ劇場in函館実行委員会に倉崎会長出席

3月15日(金)
極東大学函館校卒業証書授与式に倉崎会長、吉田理事出席

3月31日(日)
ウラジオストク姉妹都市10周年記念訪問準備のための事前訪問出発
訪 問 者
㈱宝成園 代表取締役
齋 藤 尚 仁 氏
極東大学函館校 助教授
トリョフスビャツキー・アナトリー氏
訪問日程
 3月31日(金)~4月4日(木)

≪今後の予定≫
4月2日(火) 
 理事会開催 平成14年度定期総会提出議案について協議
4月8日(月)
 平成14年度定期総会
  平成13年度事業報告及び収支決算、平成14年度事業計画及び収支予算案等について協議
5月26日(日)~6月2日(日)
 ゴーリキー・ドラマ劇場一行来日
 実行委員会の主催によるゴーリキー・ドラマ劇場in函館開催
・演劇の夕べ チェーホフ作「イワノフ」 5月29日(水)18:30開演
 函館市芸術ホール
・歌と踊りの夕べ            5月30日(木)18:30開演
 函館市芸術ホール
6月4日(火)~7日(金)
ウラジオストク姉妹都市10周年記念訪問 桜の苗木を記念植樹

新入会員紹介
 有限会社太陽地所 代表取締役
 佐藤喜代見氏 3月18日入会
 函館市民オーケストラ 団長
 村本惇一氏 3月23日入会

≪係りより≫

今年もまた、新入生を迎える時期になりました。新しい仲間と一緒に新しい1年のスタートです。
1年が過ぎるのはあっという間です。のんびりしていると何もしないうちに年をとってしまいますよ。目標を立てて計画的に時間を使いましょう。
次号のミリオン・ズビョーストは2002年7月発行です。皆さんからの投稿を募集しています。原稿締切は6月14日、楽しい話題・提案などを提供してください。(畠山)