No.27 2001.04"Миллион звезд" ミリオン・ズビョースト/百万の星

函館校と教育改革

ロシア極東国立総合大学函館校 教授 グラチェンコフ・アンドレイ

日本は高齢化・少子化の進展によって人口増加が既に限界に達し、早くも2005年には人口が減少に転ずるという見方もある。その結果、勤労世代の人口増加を期待することは極めて難しくなる。そうなれば、数年後には人手不足の時代が到来するはずだ。
経済成長の一つの要素である労働力が減少することによって、労働の値段、すなわち給料は上がるはずだ。
教育はこれまで大量生産・大量消費・学歴優先の社会に適合してきたが、最先端の情報や専門的な知識が重視される社会になり、人口減少で給料が上がったとき、教育内容やその水準をどうするかが問題になる。
職場では大量生産された学歴が価値を失う一方、専門的な能力や資格が高く評価される時代になる。そうなれば、大学の先生方や学生たちの生産性を市場の価値で測る時代になる。
現在の大学教育の在り方には、改善すべき点が多いと思う。日本の学校には教育改革が必要で、本校も例外ではない。そこで、少子化・市場化・情報化が本校にどのような影響をもたらすかという問題を考えたい。
例えば入学管理体制から見ると、本校ではほかの大学のような入学試験は行っていない。これによって、学生たちには受験勉強の負担はなくなるが、入学してからは卒業試験を受けるための勉強に励まねばならず、学校のレジャーランド化を防ぐこともできる。また、地域の企業は卒業試験の成績によって採用を決めてもいい。
つまり本校は、入学試験を重視する従来型の入学管理体制から、卒業試験を中心とする卒業管理体制の教育に移行したのである。しかし少子化・市場化・情報化のスピードが急速なため、改革は遅れがちであり簡単にはいかない。
最も改革しなければならないのは、教育過程の積極化や学生の学力強化である。これは、これまでの制度の単なる「修理」ではない。各講師の在り方や教授方法などについて抜本的に改革すべきであろう。
講義面では、講師個人の資質や活動の問題より、講義の内容、特に講義や授業の進め方を改善する方がはるかに重要だと思う。教育方法では、より実質的な授業が基本になり、とりわけ実践的なゼミナールという形式が中心になろう。
例えば「1998年のロシア金融危機はどうすれば防げたか」という共通の課題に対して、教員と学生がさまざまな意見を交換しながら、具体的な解決策を導き出していくというやり方である。
もう一つは、ロシア語の勉強方法を見直すことである。 現在、本校では、一般的に日本語で授業が行われている。しかし、大部分の教員がロシアから派遣されているのだから、授業はなるべく早い段階、すなわち第1学年末か第2学年初めから、ロシア語で授業を行った方がいいということである。しかし、これも簡単なことではない。
ところで、これまで人は外国語を勉強する際、何から多く学んできただろうか。第一に人から、第二に書物から、第三にテレビやパソコンの画面から学んできた。しかし現代はこの順番がさかさまになっている。
本校の授業風景も様変わりし、教員がインターネットやテレビ、映画などから生のロシア語を取り入れて授業に応用するようになってきた。これによって教員の生産性は高まり、学生たちの実用ロシア語のレベルも向上している。
さらに今後、わが校は、地域社会に対してロシア文化センターになると同時に、インターネットなどの情報をうまく利用して、地域の企業にさまざまなビジネス情報などを発信していくことになろう。

平成12年度卒業証書授与式

平成12年度の卒業式は3月16日に行われ、ロシア言語文学科(4年制第4期生)6人、ロシア語科(2年制第6期生)10人が巣立ちました。これで平成6年に本校が開校して以来の卒業生総数は97人になりました。
卒業生の特別賞受賞者は以下の通りです。
【ДВГУ学長賞】=賞状と副賞のДВГУ開学100周年記念襟章     
  ロシア言語文学科 工藤 久栄
【函館市長賞】¬=賞状と副賞の置時計
  ロシア語科 古伏脇 健人
【北海道私立専修学校各種学校連合会理事長賞】=賞状     
  ロシア語科 大栗 絵美

寄稿

ロシア語科第6期生の古伏脇健人さんが、卒業にあたり、旅立ちへの思いを込めた随想を寄せてくれました。

春   古伏脇 健人

遠き異国の風が恍惚とした想い出を心に残し、瀟洒な西洋館が彼方の慟哭を誘うこの港街。歩み慣れた石畳は、今日だけは少し寂しげに思えた。俯きがちに頭をたれ、イワンは雪が残る歩道を急いだ。行く先はいつもと変わらないのだが、なぜか心の動悸を感じた。血潮はまだこみあげてくるなにかに抗いきれないようだった。
彼の側を路面電車がレールの上に車輪を転がして過ぎていく。その金属音がなぜか彼の耳には鮮明だったのは、決められたコースを走るだけの車体がふともらす「キーーーー」という悲鳴が自分の心の叫びと映ったからだろうか。
そんな中、弥生も終わりを迎えようとしているのに、とめどなく降り落ちる粉雪を少し疎ましく思いながら、イワンは前髪を掻き分けた。過ごした二年の日々を省みて、自らのこころに、そして過去に決着(けり)をつけた満足感が彼の歩をはやめた。
雪が点々と残る八幡坂がいつもより急に感じ、校舎が見えた時イワンの額には汗が光っていた。壁に沿って伸びるツタを見て、私生児がその運命を呪っているかのように感じたイワンは自らの半生を嘲った。門をくぐり校舎に入るとまっすぐ二階の会場へと向かった。
同級生とせいいっぱいの笑顔で最後の挨拶をして、自分の席に腰を降ろした。次々に式が進んでいく。大都会の人の流れのように。「やり終えた」「悔いはない」と心の中で反芻してみても、後悔が残るのは若さゆえの甘さなのか。イワンは心の中で舌打ちをした。
心が透きとおっていく。神々が世をつくり、人がおろかな罪をおかし、動物が無邪気に運動する。とどまることのない時の流れは、移りゆく季節をみつめ、追い越していく。人はしょせん神の申し子、哀れな幻想を夢と取り違え世のさざなみを泳いでいく。狂おしき一生をキャンバスに描いても、ふと気がつくと真っ白な平面に満たされていく。人間の不幸に人は抗いきれないし、人間の幸福を人は手に取ることはできない。
 式を終えイワンは椅子をたった。窓から入ってくる木漏れ日は、そのときの彼にはまぶしすぎたのか、彼は左手で顔を覆った。校舎を出る彼の足取りはなぜか軽かった。夢から覚めたこどものように。
門をでてゆくイワンのそばを一筋の光が横切った。繊細で儚く、怜悧な光が…。雪はもう止んでいた、イワンの前には風の吹く函館の春が広がっていた。

卒業生の就職状況

4年制2人がロシアへ
平成12年度卒業生の進路は、ロシア言語文学科6人のうち4人が就職、ロシア語科10人のうち6人が就職し、3人が進学・留学予定です。
4年制の就職者4人のうち1人はウラジオストクの極東国立総合大学で日本語教師を務め、もう1人はユジノサハリンスクのロシア企業の研修生となり、ビジネスの基礎を学びます。ほかにロシア・CIS諸国との物流を得意とする企業にも、4年制と2年制から1人ずつが就職するなど、多くがロシア語を生かす道へと歩み始めました。

卓球サークル誕生

ユニフォームも新調
学生自治会のサークルとして、2月に「卓球部」が誕生しました。ロシア語科の嶋原健、片倉大輔両君が中心となって結成し、講義終了後などに講堂の卓球台で練習しています。
胸に「ДВГУ」のロゴマークをあしらった黒のユニフォームも5着(上下セット)用意しました。
公式戦デビューは2月11日、サン・リフレで行われた第30回道南選抜大会で、嶋原、片倉君はダブルスとシングルスに出場。嶋原君はシングルスで2回戦まで進出しました。

本年度の新入生

平均年齢は25歳
平成13年度の新入生は、4年制ロシア地域学科が10人(男性7人、女性3人)、2年制ロシア語科は7人(男性4人、女性3人)です。
平均年齢をみると、4年制は高年齢の社会人入学者が2人いるため28歳になっています。2年制は22歳で、新入生全員の平均は25歳です。

新年度の諸注意

ウラジオストク留学
ウラジオストク本学への留学実習は、まず2年制のロシア語科2年生を中心とした11人が、4月8日に日本を出発します。留学期間は原則として1ヶ月間ですが延長もでき、1ヶ月間で帰国するのは5人、2ヶ月間が2人、3ヶ月間が4人です。皆さん、大きな収穫をつかんで元気に帰国してほしいものです。
また、この秋3ヶ月間の予定で留学に出発する4年制ロシア地域学科3年生に対する第1回留学実習説明会は5月23日(水曜日)午後2時40分から開きます。 
参加者は5月中にパスポートを取得しておきましょう。


再試験を受ける学生は…
前年度に不合格科目のあった学生を対象として、4月下旬に再試験を行います。再試験を受けなければならない人は、再試験受験願を再試験料とともに事務局へ提出してください。再試験を受けるには1科目1回1000円かかります。


奨学金説明会を開きます
日本育英会の奨学金については、育英会本部から本校の推薦枠などに関する通知が届き次第、4月下旬に説明会を開催します。開催日は掲示板に張り出すので、受給を希望する学生は出席してください。


定期健康診断の受診を
学生全員を対象に定期健康診断を実施します。あらかじめ近くの高橋病院(函館市元町32-18)に学校で一括して申し込んであるので、5月中の指定日に各自受診してください。健診実施日は掲示板に張り出しますので、注意してください。
指定日に受診しないと、受診料は自己負担(3000円程度)になります。また受診しない学生には、学割などの証明書を発行することができません。


「海の日」は開校日
7月20日(金曜日)は暦の上では「海の日」の祭日になっていますが、翌週から前期試験が始まるザ・チョット週間なので、開校日として通常どおり授業を行います。
替わりに試験週間の最終日に当たる8月3日(金曜日)を休日とします。

5月から市民講座

受講料には学生割引も
本校教員が勤め帰りの市民や主婦らを対象に開いているロシア語市民講座は、今年も5月から、毎週月曜日(振替休日の場合は火曜日)の夜、入門から上級まで4コース(各コース定員10人)に分かれて開講します。
前期は5月7日-7月23日の計12回で受講料は2万4千円。中期は9月17日-12月3日の計12回で同じく2万4千円。後期は平成14年1月15日-3月18日の計10回で同2万円。学生も受講でき、受講料は2割引になります。
受講生には、本校図書室を利用できる受講証を発行するほか、講座最終日には修了証を授与します。

ベリョースカクラブ

日本語でロシアを語る
新年度のベリョースカクラブは4月16日からスタートします。このクラブは、社会人を対象に毎月1回、本校のロシア人教員が代わる代わる講師になって、ロシアについてのさまざまな話題を日本語で提供し、ロシアに理解を深めてもらおうと平成11年から開いています。
参加者にはロシア語経験は不要で、会費もコーヒー代金として毎回500円のみ。会場は昨年と同じ、「ペンション坂のうえ」(函館市元町31-16、電話26-4891)です。
本年度も8、12月を除く毎月第3月曜日(月曜日が振替休日の時は火曜日)の午後3時から1時間を予定しています。

ТРКИ実施結果

3ランクに13人が挑戦
「外国人のためのロシア語能力検定試験(ТРКИ)」は1月20、21日に行われ、一般市民3人と本校学生ら合わせて13人が受験しました。また、本学から根室西高校にロシア語教師として派遣されているボイコ・ナタリア先生が本校教員とともに試験官を務めました。
今回実施した3ランクのうち、基礎は4人、1級は7人、2級は2人が受験。2日間にわたり文法、語彙、読解、リスニング、作文、会話の5部門で難問に挑戦しました。
結果は本校で仮集計した後、現在、モスクワの教育省附属ロシア語能力検定センターに送られ、判定作業が行われています。

マースレニッツァ

わら人形は冬の象徴
厳しい冬に別れを告げるロシアのお祭り「МАСЛЕНИЦА(マースレニッツァ)」が2月23日、本校では初めて行われ、同日午前中のロシア語弁論大会見学者や一般市民らも参加。このときの模様は、テレビや新聞でも紹介されました。
本番では、仮装した学生と税関研修生たちが、冬を象徴するワラ人形の「МОРЕНА」(モレーナ)を引いて、皆の待つ食堂に入場。学生バンド「ОЧКЕЕВ」(アチケーエフ)が演奏を披露した後、アニケーエフ・アレクサンドル君(アニケーエフ教頭の五男)が太陽の仮装で現れ、モレーナをやっつけました。
モレーナは高さ約2㍍もあり、太陽や動物の仮装は段ボール製の手作りで、いずれもデルカーチ・フョードル先生のデザインを学生たちが塗装したもの。
八幡坂に居合わせた大勢の観光客らも見守る中、駐車場に引き出したモレーナに火を放つと、勢いよくオレンジ色の炎を上げて燃え、厳しい冬の終わりを告げていました。

短信

サハリンに総領事館
ユジノサハリンスク市に置かれていた日本外務省、北海道関係の事務所が相次いで「昇格」しました。
在ハバロフスク総領事館在サハリン出張駐在官事務所は「在ユジノサハリンスク総領事館」になり、新総領事はウラジオストクの総領事だった黒田義久さんです。
社団法人北海道貿易物産振興会ユジノサハリンスク事務所は「北海道庁ユジノサハリンスク事務所」として、正式に道の出先機関になりました。道ユジノ事務所の初代所長と経済担当駐在員は、昨年秋から2ヶ月間、本校でロシア語の集中講義を受けた越前雅弘さんと田邊弘一さんです。
ちなみに越前所長と交替した「最後の貿易物産振興会ユジノ事務所長」檜山明男さん(現・道ロシア室主幹)も本校のインテンシブコースでロシア語を学びユジノサハリンスクに赴任しました。


北海道ビジネスセンター開設へ
サハリン大陸棚の石油・天然ガス開発本格化に伴い、現地でのビジネスチャンスが拡大することを期待して今年5月、道内の経済界が力を合わせてユジノサハリンスク市内に「支援基地」を開設します。
北海道ビジネスセンター=略称HBC=がそれで、総合商社出身の所長と日ロ両国のスタッフが協力して、サハリンへ進出して新規事業を展開する道内企業などに情報提供したり、現地での活動を支援します。


ホームページ一新
皆さんはもうご覧になりましたか? 本校のインターネット・ホームページがデザインを一新しました。今回もデルカーチ先生の力作です。
トップページの一番上にあるのは、そう、皆さんが入学式で与えられた「知識へのキー」です。トップページからニュースが並んでおり、「入学案内」もリニューアルしました。「極東大学」をクリックすれば、ウラジオストクのДВГУのサイトへも簡単に行けます。内容はますます充実させるので見守ってください。「学生自治会のページ」なども期待しています。
URLはこれまでと変わりなく「http://www2.hotweb.or.jp/fesu」です。

新規所蔵図書

平成12年度(平成12年7月-平成13年3月)の主な寄贈・購入図書と寄贈者は次の通りです。

  • 国際関係の仕事、なり方完全ガイド2001=購入
  • 日本滞在日記(ニコライ・レザーノフ著、大島幹雄訳)=佐藤富三郎さん寄贈
  • 完訳シベリアの日本人捕虜たち(セルゲイ・クズネツォフ著、長瀬了治訳)=訳者寄贈
  • 新詳説国語便覧(中洌正堯編)=購入
  • 研究社和露辞典=購入
  • 北方領土問題 歴史と未来ほか44冊=種田貴司さん寄贈
  • Мы В Россииほか1冊=ナタリア・ボイコさん寄贈
  • 1700 Лучших сочиненийほか6冊=西尾正範、池田英治さん寄贈
  • デリバティブのすべて=古伏脇健人さん寄贈
  • 小樽 歴史的建造物と町並みほか46冊=宮永敏明さん寄贈

※ 最近、図書室の蔵書を断りなく持ち出したり、貸し出し期限を過ぎても返却しない人が目立ちます。うっかり借りっぱなしになっている人は早く返してください。図書係が不在の時には事務局を通してください。

≪係りより≫

本校にとって、21世紀の幕開けは「ТРКИ」実施と弁論大会、初のマースレニッツァ開催、卒業・期末試験、入学試験、卒業式とあわただしく過ぎていきました。学生の皆さんにも忙しい日々が続いたのではないでしょうか。「転がる石に苔は生えない」と言いますが、転がるためには最初のひと押し(努力)が必要。転がり始める前にも、じっくり考えてみることが大切かもしれませんね。