極東の窓

ロシア極東連邦総合大学函館校がお送りする極東情報満載のページ。
函館から、ウラジオストクから、様々な書き手がお届けします。

2019年を思う

函館校

まもなく2019年が終わろうとしています。今年も「極東の窓」をご覧いただき、ありがとうございました。
毎年末に一年を振り返るとき、今年もいろいろなことをやったなあ、と思い出しますが、2019年は何といっても開校25周年を記念し、7月4日に函館市芸術ホールで開催したコンサート“「極東の窓」から”が一番に挙げられるでしょう。
そのちょうど1年前の2018年7月、私はピアニストの高実希子さん、ヴァイオリニストの田代裕貴さんが奏でるプロコフィエフ作曲の組曲「ロメオとジュリエット」を聴く機会に遭遇しました。
これだ!これを来年の函館校開校25周年の記念行事としてできないものか、市民を無料招待するコンサートを開いて、これまでの謝意を表したい!!と考えました。
田代さんはスウェーデンのイェーテボリオペラ管弦楽団第2ヴァイオリン首席奏者ですが、ここ数年は夏になると毎年函館で演奏されています。すぐに高さんに連絡を取り、来年も田代さんが函館に来るなら、ぜひお二人によるオールロシアプログラムのコンサートを開けないものか、そして“ロメジュリ”は必ず入れてほしい。
その時は“オールロシア”という縛りが演奏者にとってどんなに大変なものか、普通はこんなことはしない、ということもあまり考えていなかったのですが、二人とも即決で快諾してくださり、私はすぐに1年後の芸術ホールを押さえました。そこから準備が始まりました。

開校当初から活動する函館校の合唱サークル「コール八幡坂」にも歌ってほしい。鳥飼やよい先生に相談すると、それなら函館市民の歌「はこだて賛歌」をロシア語で歌おう、だったらこの歌は市民なら誰でも歌えるのだから、最後は日本語で1番の歌詞で、観客とともに大合唱でグランドフィナーレにしよう!
本来歌詞を翻訳して歌うということは、作詞作曲者の承諾が得られなければできないことですが、今回は主旨をご理解のうえ特別に許可していただきました。作詞の前川和吉さんのご遺族は当日会場まで足を運ばれ、あとでご丁寧なお手紙まで頂戴しました。
そんな街です、という歌詞を私たちはВот такой наш город(ヴォット タコイ ナシ ゴラト)と訳しました。それがメロディーに乗せると日本語に近い音の言葉に聞こえて驚きました、との感想をご遺族からいただき、意味はもちろんのこと、響きも原詞に近づけるよう、リズムにきちんと乗るようにと翻訳した苦労が報われた気がします。
学生たちもはじめはクラシックコンサート?なんだそれ、ぐらいの気持ちだったようですが、ポスターが出来上がり、手分けして近所に貼ってもらったり、当日お客さんに配るための記念缶バッジのデザインコンテストを開いたり、スタッフTシャツを作り、役割分担をしていくうちに、自分たちが作るコンサート、という認識をもって働いてくれました。
コンサートは平日だったため、授業が終わってから全員で芸術ホールに向かい、そろいのTシャツに着替え、楽屋でラッキーピエロのハンバーガーで腹ごしらえをして出陣しました。開場前にお客さんが列をなしているうれしい光景を見て、こんなに人が来るんですか、と驚きながらも各自役割を果たしてくれました。そしてそんな学生の姿は好感をもって観客の目にも映ったようです。
クラシックなんて堅苦しい、と思っていた学生も中にはおりましたが、ホールで本物の演奏を聴けば理解が深まります。そして圧巻の「ロメオとジュリエット」。この曲を切望していた私は、残念ながら客席ではなく舞台袖でモニター越しに聴くことにはなりましたが、思った通りのお二人の熱演、そして大きな拍手で会を終えることができ、心より安堵いたしました。
後々、高さんから伺った話では、昨年7月の演奏会の記録ビデオを見たら、一番前の席でのめり込むようにロメジュリを聴いている私の姿が映っていたと笑っておられました。
また、時を同じくして、学報「ミリオン・ズビョースト/百万の星」が発行100号を迎えました。年4回の発行で25年間、たゆまず続けてきた証です。通常は8~12ページのものを特大号として16ページに増やし、開校当時の職員や卒業生にも寄稿してもらい、これをコンサート会場で配布しました。お忙しい中それぞれの思いを寄稿していただいたみなさまに、この場を借りてお礼申し上げます。
話は変わりますが、函館ハリストス正教会は、函館校から徒歩3分のところにあります。ロシア人のニコライ・ドミートリエフ神父に用があるときは、いつもアポなしで司祭館のチャイムを鳴らします。ニコライ神父は初めて訪れた時から、この突撃訪問をロシアらしい、と歓迎してくれました。5月のとある日、記念コンサートのチケットを届けに司祭館を訪ねるとニコライ神父がちょうどいらして、出てきてくださいました。
「大渡さん、今年のロシア人墓地清掃にも、私はぜひ参加したいです。」
毎年5月に札幌のロシア総領事館からも数名来函し、函館山の麓にあるロシア人墓地の枝払やゴミ拾いをするのが恒例ですが、ニコライ神父は清掃が終わったあといつも、異国の地に葬られた母国の人々に祈りを捧げるのです。まさか、これがニコライ神父との最後の会話になるとは、夢にも思っていませんでした。
函館正教会に赴任されてから11年、函館校と教会は折にふれ協力的関係を築き、2008年のロシアセンター開設時には成聖式も執り行っていただきました。ロシアセンターにはその際ニコライ神父から贈られた「三本手の生神女」のイコンが掲げられています。ニコライ神父は現在、ロシア人墓地より少し山側にある、函館湾を望むハリストス正教会の墓地に静かに眠っています。

さて、今年で4年目となる極東大学オリジナルカレンダーですが、今年はすべて学生が撮影した写真を使用し、ウラジオストク・サンクトペテルブルク・モスクワ3都市の日常を伝えています。カレンダーを作るために狙った写真ではなく、学生が留学やインターンシップにおいてロシアで過ごす中、日常目にする光景を写真に収めたものが、かえって好評なのかと思います。毎年楽しみにしてくださる方も多く、発売前から予約が入るほどです。販売収益は学生の自治会活動などに使われます。事務局にて取り扱っておりますので、興味があればぜひお求めください。
このように今年も上げたらきりがないほど、勉学に課外活動に忙しい日々で学生もなかなか大変かと思いますが、来年もまだまだいろいろなことに挑戦していきたいと思います。引き続き、函館校をよろしくお願いいたします。みなさまに取りまして来年がより良い一年となりますよう。

ロシア極東連邦総合大学函館校 事務局 大 渡 涼 子