極東の窓

ロシア極東連邦総合大学函館校がお送りする極東情報満載のページ。
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ロシア人の生活の中にいる猫

はこだてベリョースカクラブ

一般向け文化講座「はこだてベリョースカクラブ」の今年度第6回目の講話内容です。
テーマ:ロシア人の生活の中にいる猫
講 師:スレイメノヴァ・アイーダ(教授)

皆さんは犬派、猫派、どちらですか?
ロシア人は、とあるテレビ番組の調査によると猫を飼っている人が多い国民第1位です。人口の50%以上が猫を飼っているそうです。人気の理由には、ロシア原産の猫が多いからかもしれません。始めに3種類ほどロシアの有名な猫の品種を紹介しましょう。
1つ目はシベリア出身の猫、サイベリアンがいます。雪が多く寒い気候の猫のため、長毛種です。見た目は大きいですが、体のほとんどは毛で、抱き上げるととても小さい猫です。
2つ目は「ネフスカヤ・マスカラドナヤ」です。これはサイベリアンの一種ですが、毛の色が明るく、目が青いのが特徴です。名前は仮面舞踏会の仮面をつけているような外見にちなんで付けられました。
3つ目は皆さんよくご存じの「ロシアンブルー」です。毛はグレーで目が青い猫です。一説によれば、英国人水夫たちが青みがかった美しいグレーの猫をロシアの北部の港町アルハンゲリスクから持ち帰ったことで広まったということです。
ロシア人の生活の中には、自然と猫がいました。昔から、動物を家の中へ入れること、子どもと一緒に暮らすことを許していました。冬には納屋の中だけでなく、家の中に犬や猫を入れていました。寒い冬を外で過ごさせるということを考えたことはありません。
現代のロシアではSNSで自分の気持ちを猫の写真で表すことが流行っています。猫の写真でジョーク画像を作る人もいます。日本的に言うと大喜利に近いです。
こんなに猫を身近に感じているのに、ロシア人は黒猫にあまり良い印象を持っていません。ロシアの言い伝えでは、黒猫は小悪魔が姿を変えたものだと言われているからです。黒猫は村の魔女の象徴でした。そのため、黒猫が目の前を横切ると悪い知らせだとされ、別の道を行くか、悪霊を追い払うために左の肩越しに唾を3回吐かないといけないという迷信があります。ほかにも黒猫にまつわる迷信があります。「黒猫は泥棒から家を守る」というものです。そのため、黒猫を飼っているロシア人はたくさんいます。
さて家の話ではありませんが、美術館の守護者と呼ばれる猫がいます。皆さんは、ロシアのサンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館をご存知でしょうか。この美術館は5つの建物からなっています。その中心にある冬宮殿と呼ばれる建物はロマノフ朝時代の王宮です。これが建造された300年ほど前、女帝エリザベータが宮殿の地下のネズミを退治させるため、サンクトペテルブルクの南東にある1,200キロ離れたカザンの街から猫をつれてくるよう命令しました。猫は今も美術館に住み着いています。長年、寄付によって支えられ、美術館の職員たちが世話をしています。そして猫たちはネズミ捕りの任務を今でも忠実に行っています。エルミタージュ美術館は、たくさんの芸術品もあり、それを目当てに世界中から人が訪れますが、この「美術館の守護者」も大変人気で、訪れた人々は庭に寝そべる猫たちにカメラを向けるのです。
最後に珍しい猫の話をしましょう。ロシアではいわゆる普通の猫ではなく、猫科の「アムール虎」、「アムール豹」、「ユキヒョウ」も人気です。しかし、これらは20世紀後半に激減しました。アムール虎やアムール豹の生息する沿海地方では森林伐採が進み、生息地が脅かされていること、そして密猟も大変多いためです。ユキヒョウは生息地こそ違えど置かれている状況は同じです。
この中でもアムール虎は、国際自然保護連合が発表しているレッドリストでも絶滅危惧種に指定されており、ウラジオストク郊外では地元住民がボランティアで保護飼育活動を行っています。また動物保護団体による保護活動も進み、生息環境も改善されつつあるので、徐々に個体数は増えていっています。しかし、これによってアムール豹の生息を脅かす状況にもなっているので、自然のバランスを保つのは難しいことが分かります。
このアムール虎の保護活動や窮状に対する認識を高めるために、ウラジオストクでは毎年9月の最後の日曜日に「トラの日」というイベントを開催します。街は虎色、虎模様に飾り付けされ、市民も虎の仮装をし、パレードを行います。
このようにロシア人は基本的に動物全般が好きで、そして間違いなく猫好きが多いと思います。私は勿論、猫派です。ロシアのアパートやマンションにはペットに関する規約が無いところがほとんどのため、誰でも気軽に飼うことができます。ロシア人の生活の中には、気づけば猫がいるのです。