No.125 2025.10"Миллион звезд" ミリオン・ズビョースト/百万の星

ロシア極東との結節点 函館で今考えること

ロシア極東連邦総合大学函館校 教授 倉田 有佳

函館市在住のロシア人人口が最も多かったのは、今からちょうど100年前のことである。統計上は157名だが、短期滞在者を含めれば、この倍くらいのロシア人がいたようだ。現在の函館の西部地区(旧市街)という狭い市域に暮らす人たちは、通りでロシア人を目にすることは珍しくなく、隣人あるいは学校の同級生として接した人たちも少なくなかった。
近年の研究によれば、1917年のロシア革命後にロシアを離れた人は約150万人。その一部が東の端、海を越えて日本にも流入した。だが、その多くはアメリカなどに亡命先を求めるトランジット客で、ウラジオストクからの定期航路で敦賀港(福井県)に到着すると、横浜に向かった。日本に留まった人たちは、東京や横浜(1923年9月1日の関東大震災前)、神戸(関東大震災後)、長崎、そして函館に集住した。地方都市を選んだ人もいた。統計上の日本在留露国人数は、1945年までの約四半世紀、1000から1500人の間で推移した。
函館は、古くから領事館やハリストス正教会があり、20世紀前半は露領漁業の基地だった。オホーツク・カムチャツカ方面に出漁した日本人を頼って避難してきたロシア人が少なくなかった。日本人と結婚し、函館で生涯を終えた5名のロシア人女性の場合も、ニコラエフスク2名、オホーツク1名、アレクサンドロフスク1名、イルクーツク1名(ロシア革命後ウラジオストクに避難)、と出身地はいずれもロシア極東だった。日本人の夫は、ロシア語通訳など、全員がロシア語を解した。長年函館のロシア語教育に尽力された成田ナデージダさん、日常的に和服を着用し姑に仕えた方など、生き方は様々だったが、1名を除きハリストス正教会墓地に夫と共に眠っている。
ロシア人墓地に妻・娘と並んで眠るワシーリー・アルハンゲリスキーの場合は、1887年ヴォルガ川河口のアストラハンに生まれ、漁業監督官としてハバロフスクに勤務していた時に革命が勃発。ソヴィエト政権下で失職したため、職を求めてロシア人の妻子を伴い来函した。漁業会社を興すも失敗し、1933年に日魯漁業㈱外事課への入社がかなった。1939年に亡くなるまでの7年間は、ロシア語通訳組合「北洋同志会」(1929年結成)主催の露語講習会の講師を務めた。
日本全体を見渡せば、大半は縁故者もなく日本に避難・亡命し、生業のトップは羅紗や洋服の行商という不安定な職だった。函館では、露領漁業の縁があり、ロシア語需要のすそ野が広かったことが彼らにプラスに働いた。
振り返れば、1793年のアダム・ラクスマンの来航以来、函館がロシア極東地域との結節点となり得たのは、ロシア極東に近い「天然の良港」を擁していたためである。函館とロシア・ソ連の長い交流史の中で不和や対立がなかったとは言わないが、「中央」の原理とは異なる、「ローカル」レベルでの関係が築かれてきたことを今一度思い出したい。

△ 写真のハリストス正教会墓地は、明治8(1875)年から主として日本人信徒を埋葬する墓地となった。ロシア人墓地の方は、明治3(1870)年に米・英・独・露・中の在函五カ国領事からの要望で正式に墓地設置が認められた墓地で、「グリーキ チャーチ墓地」と呼ばれ、主として外国人の信徒を埋葬することになっていた(明治8年9月18日「外国人墓地貸渡証書」『墓地関係書類』等より)

学内の様子

津波時の対応について 
事務局長 大渡 涼子

7月30日(水)午前10時前、ロシア・カムチャツカ半島沖で発生した地震に伴い津波警報が発令されました。みなさんのスマホからも、けたたましい警報音が鳴り響いたと思います。この日、函館校は前期試験期間中で、通常の時間割とは異なるスケジュールで動いており、10時から始まる試験のために、学生たちが登校しつつありました。
津波警報が発令されたとは言え、函館山の山麓にある函館校の位置まで水が来ることは考えにくく地震の揺れもなかったので、試験は予定通り10時から始めることに決めました。
津波到達予想時刻が近づくにつれ、市内では自家用車による避難が始まりました。普段は国内外からの観光客で賑わう函館校の前の八幡坂の両側に二重駐車、八幡坂と水平に交わる横通りも避難した車でいっぱいになりました。函館山の麓には何本も坂がありますが、どの坂も自家用車やトラックなどでいっぱいとなり、市内の幹線道路は高台に向かう車で渋滞が起こったそうです。
函館校の最寄りの指定避難所は、通りを挟んですぐ山側の函館西高校ですが、私たちはそこに移るまでもないと判断し、学校に留まりした。途中、港付近の水産加工場から白いゴムの胴長姿のままの女性たちが函館校に避難してくる場面もありました。避難所であれば毛布や飲料水など設備があることもあり、その方たちには西高校に避難するよう勧めました。
後から知ったことですが、近隣のスーパーやコンビニもすぐに閉鎖して、従業員も避難したようでした。函館校では学生数の減少により学生食堂が昨年夏に営業を終了したため、昼食を持参していない場合は外に買いに行くしかありません。お昼になっても避難指示は解除されず、私たちは動くことができませんでした。
そこで、春に学生たちとロシアの茹で餃子「ペリメニ」を作り、食べきれなかったものを冷凍していたことを思い出しました。急遽大鍋でお湯を沸かし、食堂で学生も教職員もみんなが集まってランチタイムとなりました。買い物に行くこともできないため、その場にある材料でタレを作り、冷凍していたパンも解凍して温かい食事をとることができました。このような非常時に温かい食事がとれる、しかも家族のように見知った仲間で。学生たちはペリメニで力を付け、午後の試験に臨んだ後は、八幡坂に避難している車もだいぶ少なくなっていたので、様子を見ながら帰宅しました。
函館校では年1回、地震と火災を想定した自衛消防訓練を実施しています。実際、今までにも東日本大震災の津波被害、北海道胆振東部地震による北海道ブラックアウトなど、函館でも大きな災害を経験してきました。幸い今回はその時のような被害はありませんでしたが、過去の教訓が生かされ、市民が瞬時に逃げるという行動を取れたことは、良かったと思います。

ウラジオストク留学実習

9月27日(土)より、ロシア地域学科3年生2名と2年生1名の計3名が、2か月の予定でウラジオストク本学に留学中です。ウラジオストクへの留学は昨年に続くものですが、現在も日本の外務省からはロシアに対し、危険情報レベル3・渡航中止勧告が発出されたままです。一部ビジネスや留学に関しては9月から制限が緩和されたとの情報もありますが、今回も国や関係機関には必要な届出をしてロシアへの留学を決行しています。
3年生2名は昨年に続き二度目の留学となるため、今回は学生のみで渡航しています。羽田空港から中国・北京を経由し、28日(日)の早朝、ロシア・ウラジオストク空港に到着。翌29日(月)には健康診断を受け、30日(火)から授業を開始しています。
滞在するのはルースキー島キャンパス内にある寮ですが、毎日市街地にある本学附属外国人のためのロシア語学校に路線バスで通います。昨年の留学実習で知己を得たロシア人学生とも再会し、語学のレベルアップのみならず、たくさんの経験を積むことでしょう。
期間中には外国人のためのロシア語検定試験(ТРКИ)の受験も計画されています。3名の学生はこの春から函館校にてイリイン・ロマン准教授による受験対策講座を受けており、準備も万全です。
学生たちにとって念願のウラジオストク留学が有意義なものとなるよう、学校として学生たちが無事に帰国するまで最大限にサポートしていきます。
また今年度も参加学生全員に、留学奨学金より羽田―ウラジオストク間の往復航空券代 約175,000円が支給され、学生の助けになりました。帰国後にまた、留学の様子を伝えてもらいます。

日程:9月27日(土)~11月23日(日)

トランジットの北京にて

体育授業・ボウリングを行いました

夏休みも終わり、後期授業が始まりました。全員必修の体育の授業では、通常は近隣の函館市立弥生小学校の体育館をお借りしてバレーボール、バトミントン、器械運動などを行っています。時には函館山登山をしたり、今年の春は学校から五稜郭公園まで往復14キロのウォーキングも行いました。夏休み前、最後の授業では学生の発案で、日頃お借りしている弥生小学校に感謝の意を込めて周辺のゴミ拾いも行いました。
9月17日(水)、後期初回の体育授業は初めてボウリングを行いました。学生のリクエストにより理事長と教員4名も参加、市内のボウルサンシャイン函館にて3チームに分かれ2ゲーム投げ合いました。
若い学生はボウリングの経験が少ないようですが、体育・小林礼先生の指導の下、みんなで楽しく汗を流しました。

農業プロジェクト・アグリ八幡坂の活動

アグリ八幡坂の活動は今年で5年目となり、春に土を起こし種蒔きした野菜たちは順調に実をつけてくれました。夏休み前の7月下旬にはスビョークラ(ビーツ)とジャガイモの収穫を行いました。そして前期試験最終日となった8月8日(金)、それらの野菜を使って夏休み恒例のボルシチパーティーを開催しました。
デルカーチ・フョードル校長の監修のもと、学生が手を真っ赤に染めながらスビョークラを刻み、豚肉と野菜でスープを取っておいしいボルシチを作り、教職員にふるまいました。この日たまたま神戸から函館に旅行中だったデルカーチ校長の友人家族も飛び入り参加し、ロシア語が飛び交う楽しい昼食会になりました。
気温が下がり、だいぶ涼しくなったこれからは、白菜の苗を植え、例年同様漬物を仕込む予定です。

就職支援について

現在、ロシア地域学科3~4年生に向けて就職支援を行っています。個々の進路希望に応じて事務局が相談に乗るほか、一般教養試験対策として、教養科目担当講師による個別指導など、学生の選択肢に合わせた支援を継続します。

ご寄付のお願い

ロシア極東連邦総合大学函館校へのご支援を賜りたく、広く寄付を募っております。みなさまのご協力を心よりお願いいたします。
【寄付金の使途内容】
令和9年3月予定の閉校に伴う修学・雇用対策に資する目的の費用に充当します。
【募金金額(目安)】
個人 1口当たり 5,000円
法人 1口当たり 20,000円
【税制上の優遇措置】
当学校法人は、特定公益増進法人および税額控除対象法人に該当するため、税制上の優遇措置が講じられています。
【払込方法】
事務局にご連絡いただければ、①こちらから集金に伺います(函館市内に限ります)。②事務局へご持参いただく。③現金書留にて送金いただく。④下記銀行へお振り込みいただく。
学校ホームページより「寄付申込書」をダウンロードするか、氏名・住所・電話番号をメールやFAXにてお知らせください。後日領収書等送付させていただきます。

※ 恐れ入りますが、振込手数料は寄付者にてご負担ください。詳細については、こちらもご覧ください。

<ご連絡またはお問合せ先>
ロシア極東連邦総合大学函館校 
事務局  TEL: 0138-26-6523

お知らせ

冬季休業

今年度の冬季休業は、12月22日(月)から1月5日(月)までです。
後期授業再開日は1月6日(火)です。

事務局テレワークと年末年始休業

冬季休業中の12月22日(月)~1月5日(月)の期間の平日は、事務局のテレワーク期間とし、校舎を閉鎖します。この間、図書室は利用できません。証明書発行等急ぎの場合は、info@fesu.ac.jpに、まずはメールでご連絡ください。
なお、12月29日(月)~1月5日(月)については、年末年始休業となり、メール対応もできませんのでご了承ください。

今年度ロシアまつりは開催しません

例年多くの市民のみなさまにご来場いただいた「はこだてロシアまつり」は、昨年の第27回「大感謝祭」をもちまして終了いたしました。 
今年度より学生募集を停止したため、まつりを開催できるだけの人員がおりません。これまでのご愛顧に心より感謝いたします。

オトナのマトリョーシカ絵付け体験教室

中高生以上の一般市民を対象とした「オトナのマトリョーシカ絵付け体験教室」を開催します。
当日は、ロシア人教員が鉛筆で下絵を描いた白木のマトリョーシカに、自分の好きな色を塗ったり模様を付けて完成させる作業で、マトリョーシカを始め必要な道具は本校で準備します。自分だけのマトリョーシカを仕上げていただく、楽しいイベントです。

※詳しくはこちらにも掲載しております。
日時:12月6日(土)9:00~12:00
場所:ロシア極東連邦総合大学函館校 2F ロシアセンター
費用:一人3,000円(当日いただきます)
定員:10名
申込:ロシア極東連邦総合大学函館校事務局までお電話でお申し込みください。
   定員になり次第、締切りとさせていただきます。
電話:0138-26-6523   (月~金 9:00~17:00)

2026年オリジナルカレンダー予約受付開始

毎年大好評のオリジナルカレンダー、2026年版を12月上旬から発売の予定です。今年のウラジオストク留学実習で撮影した写真を中心に作製する予定です。最新のロシアの街並みや美しい自然をお楽しみいただけるほか、月や曜日、祝日はロシア語でも標記していますので、ロシア語学習にも役立ちます。
カレンダーは、本校事務局で1部500円で販売し、収益は学生自治会活動の補助に使わせていただきます。
郵送ご希望の場合は1部610円(送料込み)で承ります。今年より、切手でのお支払いができなくなりました。お手数ですが銀行振込または現金書留にてお支払いをお願いします。その際、送付先の住所・氏名・電話番号をメールまたは現金封筒にメモ同封でお知らせください。
複数部ご希望の場合は送料が変わりますので、その旨お問合せください。
※詳しくはこちらをご確認ください。

短信

ホームコンサート”「極東の窓」からVol.6”を開催しました

7月11日(金)の夜、函館校講堂にてピアノ・高実希子さん、ヴァイオリン・田代裕貴さんによるコンサートを函館校と学生自治会が企画・主催しました。
このシリーズは、2019年に函館校開校25周年ならびに函館日ロ親善協会設立30周年を記念し、函館市芸術ホールで初開催したのを機に、形を変えながら続いており、毎年楽しみにされているファンもいます。
当日はラフマニノフの「ロマンス イ短調」やシュニトケの「祝賀ロンド」といった、耳にする機会の少ない曲をご披露いただき、ピアノソロではチャイコフスキーの「『四季』より4月松雪草、6月舟歌」といったピアノソロも演奏されました。
手作りのコンサートではありますが、今年も今回は函館校講堂を会場としたホームコンサートでした。定員の60名を上回る市民のみなさまにピアノとヴァイオリンの美しい調べをご堪能いただきました。函館校に足を運ぶのは初めてというお客様も比較的多く、普段なじみのない方にも函館校を知っていただく機会となりました。
ロシア音楽の魅力に酔いしれ、満場の拍手で終了となりました。今から来年を待望する声も上がっています。

函館日ロ親善協会からのお知らせ
7~9月の主な活動実績

〇 現在、主だった活動はできておりません。

<係より>

学生が待ち望んだウラジオストク留学を今年も実行することができました。現地での学習・生活は何にも代えがたいもの。まずは無事の帰国を願い、成果を上げてくることを期待します。
次号では報告が聞けると思います。どうぞお楽しみに。(大渡)