校章 Филиал Дальневосточного Федерального Университета в г. Хакодатэ
ロシア極東連邦総合大学函館校
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「森は海の恋人」をロシアへ、講演会開催 News◇2012.8

 7月14日(土)、はこだてロシアまつりと同時開催で畠山重篤氏講演会「『森は海の恋人』の世界〜アムール川と北太平洋」を開催しました。講師の畠山氏には講演会で全国を飛び回る大変お忙しい中、来函していただきました。
 当日は定員を上回る約120名の来場があり、畠山さんの活動への関心の高さをうかがい知ることができました。つい先日、ラムサール条約登録湿地となった大沼の保全活動をしている方々や、市内の大学で環境科学を学ぶ学生などから高い関心が寄せられ、終了後には著作の販売も行いましたが、サインを求める人々で列ができるほどの人気ぶりでした。
 
 今回極東大学で畠山氏の講演会を行ったのは、氏の著作「カキじいさんとしげぼう」のロシア語版を製作するにあたり、翻訳を引き受けたことが背景にあります。グラチェンコフ・アンドレイ教授の翻訳によるロシア語版は9月末頃、カキの森書房より出版される予定です。

講演では難しい科学の話をわかりやすく、かつ実践と経験に裏付けられた大変興味深いお話をしていただきました。活動の内容については、著作やマスコミなどで多数紹介されていますので、ここでは本校での講演ならではの部分を要約してお伝えします。

  

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 宮城県から参りました「カキじいさん」です。なぜ私がここに立つことができたかと言うと、私が書いた「カキじいさんとしげぼう」という本をロシア語に訳していただきたいということで、このようなことになりました。なぜ自分の書いた子ども向けの物語を訳してもらいたいと思ったかというと、今日のタイトルにもあるように実はアムール川流域の森の恵みが日本の水産にとって欠くべからざるものである、ということがわかってきたからです。
 函館の朝市なども北の海の幸であふれていますが、実は海だけの恵みで産物ができている訳ではなくて、日本の国の5倍の面積がある、ロシアと中国の国境のアムール川流域の大森林の養分、それからアムール川河口域には北海道と同じ面積の湿地帯があり、そこで作られるある養分が海に流れて来ないと北海道の海産物が獲れないということが、だんだんわかってきたからです。
私の本職はカキとホタテ貝の養殖なのですが、それについても海だけの養分で育つのではなくて、背景の森林の恵みが海に来ないとカキやホタテ貝のようなものも獲れないということを、私は22年前に北海道大学水産学部の松永勝彦先生に教えてもらいました。

 ロシアの有名な民話に「大きなかぶ」があります。50年前に出版されて、今でもたくさん読まれている本です。おじいさん、おばあさん、娘、孫娘、愛犬、猫、最後はねずみまでが力を合わせて大きなかぶを引き抜くという話ですが、この物語はとても大切なことを教えてくれます。
昨年の東日本大震災で宮城県、岩手県、福島県も大きな被害を受けて、今もまだ混乱の中にあるわけですが、この物語が読まれている背景には絆、大人から子どもまで協力して生きていこうという気持ちがあります。大震災を経験して人間は一人では生きていけないということが実感としてわかりました。電気・ガス・水道が寸断され、孤立化してあらゆる文明の機器がなくなりました。翌日からどうやって生きていこうかと思いました。私の家は高台にあって流されずに済みましたが、火も水もありません。そこで家族が助け合い、朝晩2回、沢に水を汲みに行きました。車は使えないので大人はバケツを持ち、子どもはペットボトルをリュックサックに入れて、じいさん、ばあさん、長男とお嫁さん、4人の孫と大家族全員で、「大きなかぶ」と同じようなことをして、家族が助け合って生きてきました。
ちょうど震災のあった日は金曜日でカキの注文の多い日で、築地に出荷するカキが3,000個ぐらいありました。津波警報が出てから急いでフォークリフトで高台にカキを上げました。そのカキと、去年の秋口、子どもたちを集めてキャンプした時のカレーライスの残りのジャガイモがありました。山から木を拾ってきて燃やし、みんなで助け合ってカキとジャガイモで10日くらい生きておりました。だからこの「おおきなかぶ」という物語が今も読まれているということは納得がいくのです。

 今から10年ほど前、岩手県の花巻市と宮沢賢治研究会から宮沢賢治賞という賞をいただきました。宮沢賢治の研究者に贈られる賞なので、なぜ自分がこのような賞をもらったのか、よく意味がわからないまま授賞式に出席したのですが、その授賞理由がふるっていました。宮沢賢治がもし漁師だったら、あなたと同じような活動を起こしたのではないか、というのです。私は毎日海へ行き、海から山を眺めます。カキを育てるためには森に木を植えなければいけないということで、平成元年からそういう活動をしています。
 宮沢賢治は木を見て、天体を見て北上川から海の方を見ていたけれど、海側から陸を見ていなかったことに私は気がついたのです。そこで賢治に対抗して物語を書こうと、何かとてつもないことを9年前に思いついて2日で書いたのがこの「カキじいさんとしげぼう」です。

 ロシアの方々にも、海から陸を見るという視点の人は研究者をのぞけばいないと思います。ロシアの人々だってサケ・マスも海の幸も食べるし、日本の漁師の生活も支えている。北の海の恵みを享受するためには、アムール川流域の環境をどうやって保全するか、ロシアの方々に我々がこのメッセージを伝えていかなければいけない。
「大きなかぶ」は我々の精神構造にいい影を落としている。それは震災の時に世界から称賛された助け合いの精神である。今度はロシアにそれを伝えようと思いました。
 ロシア人がカキをどう理解するか問題ですが、こういう日本人の気持ちはつながってくれるんじゃないかと思う。私たちは世界中から支援をいただいている、そういうお返しの意味もあってロシア語版を作りました。
今は北海道大学の先生方が中心となってロシアや中国と環境問題の協議会を開いています。そういう時にもこの本が役に立つのではないかと思います。
 「森は海の恋人」運動については、小学校5年生の社会の教科書にはどの会社のものにも全部載っています。だから子どもたちは必ず「森は海の恋人」という言葉に触れることになる。ひょっとするとロシアでもそういうことになるんじゃないかと期待しています。

 「カキじいさんとしげぼう」の英語版を作るとき、「森は海の恋人」のいい訳が見つからず、思い切って私どもの活動に以前から関心をお持ちの皇后美智子さまに相談しました。すると、"The forest is longing for the sea, the sea is longing for the forest"はいかがでしょうか、という回答がありました。"long for"は慕うという意味だそうですね。森と海は慕いあっているということです。私は今年、国連でフォレスト・ヒーローという表彰を受けまして、その時に英語版の「カキじいさんとしげぼう」を持って行ったところ、これは誰の訳であるか、と非常に驚かれました。日本はすごい女王を抱いていると言われ、あらためて皇后さまの力の強さ、知識の聡明さを知りました。

 では、ロシア語に直すにはどういうふうになるか、非常に関心があります。こちらの先生方でもずい分ともめたらしいです。"Лес - лучший друг моря, море - лучший друг леса"、" лучший друг"とは「最良の友」だそうです。つまり慕いあっているということじゃないですか。「森は海の恋人」という言葉が世界中の言葉に訳されて、日本の太平洋の小さなところから起こったものの考え方が世界中に広がっていく、などということを考えております。「森は海の恋人」という、あらゆる人にとって重要な言葉に気がつきまして、そのようなことを夢見ています。こちらの学校の先生によってロシア語に訳されたこと、今日ここに来させてもらったことに感謝しております。

(大沼で環境保全活動をするグループの方から「小さな活動を大きく広げて続けるための秘訣は?」の質問に対しての回答)

 そういう活動をする時には詩人を一人入れなければいけません。言葉の勝利です。「森は海の恋人」という言葉を得て、私たちは活動してきて、結局こういう広がりになった。自然科学の運動をする時も文学に強い連中を巻き込んでおかないと先細りになります。最後は言葉の力だと思う。そういう意味でこの学校は非常に大事だと思います。

*ロシアまつりでは「森は海の恋人」運動や、震災の被害の様子を伝えるパネル展も開催しました。


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