学報 "МИЛЛИОН ЗВЕЗД"

学報"МИЛЛИОН ЗВЕЗД"

No.70 2012.1 "Миллион звезд" ミリオン・ズビョースト/百万の星

ロシア人の言語意識について/ロシア極東連邦総合大学函館校副校長デルカーチ・フョードル

ロシア語を習い続けるとき、その単語成分の多さ、枝分かれしていく複雑な造語論を見て、誰だってぞっとすることがたまにあるだろう。それぞれの成分がわかっても、うまく使いこなせないというのも一つの問題である。当然、ロシア語環境で育つロシア人は、生まれてから、無意識に単語成分の意味だけでなく、その表情や一定の「発音の美感」が頭にしみこむ。さらに、外国語の本や記事などの文書を露訳するロシア人にとって、その造語感覚がまた問題となるときが多い。ロシア人にとって多くの単語の響きは「暗い、かっこいい、ダサい、おかしい、可愛い」という風に聞こえるため、意味的に必要でもここでは使えないなど、翻訳するにはかなり時間と努力がかかる場合が少なくない。 日本語の「サル・カエル」のように意味が重なることは比較的に少ないが、単語の響きが違う意味を連想させることが頻繁にある。特に外来語を扱うときは注意が必要だ。たとえば、2001年にインターネットに流されたRBCラジオのニュースキャスターのNGは現在誰でも知っているくらいのネタになった。日本の相撲決勝戦についての短いニュースを録音するニュースキャスターは、原稿に日本語の用語が溢れすぎていて笑いをとめられなかったため、録音に5分以上かかってしまった(YOUTUBEなどで「Схватка двух йокодзун」を入れれば絶対出てくる)。日本語の響きに慣れている私にも「どこが面白い?」と思う位のネタだったが、ロシアのネットではしばらく流行っていた。
 まあ、それはひとつの例に過ぎないが、時によって単語全体よりも、その成分だけの響きが態度を変えることがある。たとえば、人名でも言い方は様々。ここで「イワン」という人名を見てみよう。
イワン「イワンという人」自己紹介か公式文に使う。
イワーヌシカ「若くて可愛らしいイワン」現在では、昔話にしか使わないような呼び方。
イワーシュカ「身分の低いイワン」主人が使う見下すような呼び方。
ワーニャ「親しいイワン」親、兄弟、幼馴染みが使う呼び方。
ワーニカ「イワンのやつ」①遊び友達の呼び方 ②怒ったときに親が使う呼び方。
ワニューシャ、ワニューシカ「好きな(又は、幼い)イワン」親、上の兄弟などが使う「頭をなでる」ような呼び方。
ワーニチカ「可愛くて大好きなイワン」お母さん、姉妹、妻が使う「抱く」ような呼び方。
ワニャートカ「可愛くて、ちょっと間抜けな(幼い)イワン」。
ワノー「スラング、あだ名として男子の同級生や飲み友達が使う」冗談でありながらクールな呼び方(由来は「ワーニャ」に似ているグルジア系の名前)。
 よく見れば、ある程度共通点が見えてくるでしょう。「カ」は「①より小さい ②馴染んだ」ことを意味し、「シャ」、「ニャ」は「親しさ、愛しさ」を表す。又、そのコンビネーションによって、意味のニュアンスが感じられる。さらに、文字を取り替えたりすると意味が重なったり、連想が生まれたりするので、様々な「言語遊び」ができるようになる。それは、ロシア文学を読むとき、翻訳や評価するときにも大事な点となる。ロシアの文学や言語学界の人はよく「美味しいフレーズ」という表現を使う。それは「響きも意味もバランスがよく、記憶に焼きつく名言になりそうなフレーズ」のことだ。ロシア語のそのあまりの流動性はたまに余計だと思う時だってある…、と同時にそれを失ったら困る。
 水のようなロシア語環境に入った外来語はどのように扱われるだろうか?確実に、日本語と同じくロシア語においても外来語がよりクールには聞こえる。しかし、時間が経つと、その意味もすこし変わってきて、母語への再翻訳が困難になる。たとえば、最近流行っている「КРЕАТИВ」…。由来は、もちろん、英語の「CREATIVE=創造的」だ。現代作家V・ペレヴィンの小説「GENERATION-P」の主人公はCMクリエーターという職業に就職するときに雇い主とこのような会話をする。
「クリエーターって、つまり創造主?」
「創造主はいらねえぞ。クリエーターだよ、クリエーター!」
 つまり、ここで「ものを創造する芸術家」よりも、会社に必要なペースで働く職員が雇われる。宇宙の創造主である「CREATOR」は、商業的な「クリエーター」にキャリアダウンする。つまり、ロシア語で使われる新規外来語のほとんどは、アイロニー(皮肉)の裏がある。したがって、「CREATIVE」というものは、ただの「創造的な考え方」から商業に必要な「CREATIFF」に変身してしまう。また、有名な「GLAMOUR=グラマー」は、最初は流行っていたが、今は皮肉の意味でしか使われていない。同じV・ペレヴィンの定義によると「グラマーはつまりお金の形で現れる性欲に他ならない」。
 まあ、CREATIVEもGLAMOURもブランド名のような外来語だが、日常生活に使われるものの名前はどうなるだろうか?たとえば、Eメール…。今でもたまにМЕЙЛというロシア語を聞くことがあるが、ほとんどПОЧТАと呼ばれている。一方、ПОЧТАも外来語だが、昔からある女性名詞としてロシア語文脈のなかで簡単に利用できる。さらに、スラングは、どの国でも外来語がかなり多いが、ロシア語の場合、英語のMAILはなんと、ロシア語の「МЫЛО=石鹸」に変わってしまった。
 今回はここで終わりとします。ロシア語と日本語はある角度から見ればすごく似ていると思いませんか?

学生からの投稿 『留学感想文』

■ウラジオストク留学での発見と驚き ロシア語科2年 成田 千穂

ウラジオストクでは毎日いろんな発見と出会いがあって、楽しくてあっという間でした。
私は、ロシアに行ったら色々な人とお話して仲良くなろうと思っていたので、積極的に出かけたり遊んだり勉強したりしました。昨年、留学で函館校に来ていたオクサーナ、アルテッシュ、イリヤーとも再会して、その友達とも仲良くなりました。映画館、博物館、潜水艦、デパート、遊園地にも行きました。ロシア語学校のクラスでも私は北朝鮮、中国、韓国、フィリピン、アメリカの国々の友人ができました。もちろん、会話はロシア語なので、毎日ロシア語漬けでした。
町では日本車が走り、信号機がない道路があったり、空気は乾燥していてほこりもすごいですが、まさに「住めば都」。慣れてしまえば、快適でした。
今回の留学でレベルを上げようとしていたのは確かですが、いろいろな人種・文化を持つ人達と話すことで、自然に身につくものなんだと気がつきました。
留学先で生のロシア語や文化に触れることによってものすごく刺激を受けて、あらためて留学のすばらしさに気付きました。この経験を活かしてロシアに関わっていきたいです。