学報 "МИЛЛИОН ЗВЕЗД"

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No.66 2011.1 "Миллион звезд" ミリオン・ズビョースト/百万の星

「運命の皮肉」あるいは、新年あけましておめでとうございます!/ロシア極東連邦総合大学函館校准教授鳥飼 やよい

ロシアには「NHK紅白歌合戦」のかつての人気と周知度に匹敵するかそれ以上の愛され度を誇る年末の年中行事ともいえる番組がある。長さ3時間超の1975年製のこのソ連映画は、きっと2010年の年末にも放映され、ロシア中の数百万の家庭で視聴されたことだろう。その映画は「運命の皮肉」(“Ирония судьбы, или с лёгким паром”)である。この秋教材として使うために久しぶりにこの映画を見直して、経年のせいか私の見どころが変わったためか、この映画がソ連・ロシア時代を通して今も変わらぬ人気を誇り幅広い年齢層の人々に愛されている理由があらためて心に染みた。新年にあたりこの映画をこの機会に皆さんにご紹介したいと思う。

 筋は単純である。戦後が終わり、産業発展、国威発揚でソ連が最高に輝いていた1970年代。都市人口の増加で大都市周辺にぞくぞくと団地が建設されていた。そんな団地に住む青年ジェーニャが、大みそかの晩にバーニャ(公衆浴場)で友人と杯を重ね不覚にも泥酔してしまう。タクシーに自宅アパートの住所を告げて帰り着くと、そこには見知らぬ女性が暮らしていた。

 果たしてこれはタイム・トラベルかはたまたパラレル・ワールドか?大みそかの夜に典型的な団地のアパートの一室で繰り広げられる男女2人の出会いと当惑のトラジコメディ。師走の夜の街の表情、雪景色、空港など1970年代ソ連の都市生活のカタログのような風景が挟み込まれ、そこにロシア独特の新年の習わし、それぞれの恋人の存在、親との同居など行き遅れた独身男女の事情が絡み合う。

 今見てもまったく古さを感じないのはなぜだろう?

 女性主人公のナージャに目を向けてみる。自分のアパートに見知らぬ男性がいるという非常事態に直面した彼女は当然ながら驚き、抵抗といったネガティブな反応をする。しかしその後の状況の行き詰まりの場面で、なんらかの突破口を作る言葉を発するのは彼ではなく常に彼女だ。曰く「シャンパンを開けて頂戴!」(言い争いの後だが新年なのだからこうしていても仕方ない。料理もあるしシャンパンも冷えている。)曰く「これが婚約者のイポリットよ。」(突然立ち寄った女友達にジェーニャを紹介する。うまく切り抜けなくては自分の評判に関わるし嘘も方便。)曰く「あなたを引き留める言い訳がみつからないわ」(いよいよ立ち去ろうとするジェーニャに、相手も同じ気持であることを察知し助け舟を出し、それにより自分に芽生えたある感情を伝える。)という具合だ。

 ジェーニャが直情的で不器用であるのに対し、ナージャは迷いつつも必要な時には常に現実的でしかも多少自己中心的な言動を繰り出し、それが困難な状況に新たなポジティブな展開を生みだしているのだ。フィナーレで自分のアパートに戻ったジェーニャのもとを訪れるのも、そのための長距離の列車の切符を買うのもナージャである。自ら行動しておりそれゆえに最終的に幸せをつかむということであろう。ここには今に通じる、受け身だけではない女性像が示されている。

 また、ある意味密室劇であるこの映画では、出会いからの2人の内面の変化や心の揺れ動きがつぶさに台詞や演技の一つ一つにみっちりと反映されている。それがソビエト演劇の伝統かもしれないが、それを追いながら観客は「あのような心の動きはありか?」「なぜあんな表情をするのか?」「私なら何と言っただろうか?」などといちいち自分の経験と比べ合わせていることに気づくであろう。まるで自分たちも同じアパートに居合わせているようだ。

 ジェーニャが終わりに「この一晩で何年か分の歳をとったような気分だ」と言うのだが、まさにこの映画を見ると、経験ある者は自分の来し方を振り返り、また、まだ経験浅い若者は何人か分の人生を覗き見したような気持ちになれるのだ。この辺りが時代を経て老若男女を問わないこの映画の永遠の人気の秘密かもしれない。ついでながら、主人公2人が劇中歌で歌う歌は名作ぞろいである。

 時代を経てロシア人の心を鷲掴みにし続ける映画。ロシア人をもっと知りたいと思う人、あるいはロシア人との付き合いに行き詰ったと感じている人がいたら、一度この映画を見ることをお勧めする。なにかのきっかけが掴めるかもしれない。

校名変更のお知らせ

函館校の本学でありますウラジオストク市の「極東国立総合大学」が、平成22年10月5日付けをもちまして「極東連邦総合大学」と名称を変更いたしました。
 したがいまして、函館校も平成23年1月1日付けをもちまして「ロシア極東国立総合大学函館校」から「ロシア極東連邦総合大学函館校」と名称を変更いたしますのでお知らせいたします。
 本校のホームページにも掲載しましたが、 学校印や封筒・学校パンフレットなど印刷物の記載変更を順次進めていく予定です。
 皆様のご理解を賜りますよう、よろしくお願いいたします。